謎の男

作者不詳。

※ネタバレしています※

●ストーリー
オーストリアの勲爵士、ファーネンベルクは、家族や親類を連れ、カルパチア山脈に相続した領地に赴こうと旅していた。一行には、勲爵士の美しい娘、フランチスカがいた。フランチスカは、向こう見ずなところのある、気の強い娘。
そのほか、一行には、フランチスカの従妹のベルタ、フランツがいた。フランツは、フランチスカの許婚だが、フランチスカは、彼が大人しい男であることに、飽き足らない思いを持っていた。フランチスカは、ベルタの許婚、ヴォイスラウ(戦に出て、多くの軍功をあげている)の方が、ずっと頼りになる男だと思っている。

勲爵士一行は、領地を目前にして、狼の群れに取り囲まれる。勲爵士は、偶然目に入った廃墟に一時避難しようと言うが、現地の者は「クラトカ城の廃墟には幽霊が出る」と賛成しない。ところが、廃墟の脇を通りかかると、中から一人の男が現れ、その姿を見ただけで、狼どもはおびえて逃げ去る。

数日後、フランチスカが「クラトカ城にもう一度行ってみよう」と言い出し、一同は廃墟に出かける。そして、再び不思議な男に会う。男はアツォと名乗る。
狼から助けてくれた恩もあり、勲爵士は、自分の屋敷にアツォを招く。

招きに応じて、屋敷に現れたアツォは、飲食はせず、人の会話に皮肉を言うばかり。しかし、フランチスカは会ったことの無いタイプのアツォに興味を持つ。
アツォが初めて屋敷現れた夜から、フランチスカは病気になる。
青ざめて、元気が無く、喉に赤い傷ができて、一向に治らない。
フランチスカは、毎晩夢にアツォが現れて、喉にキスをする夢を見る。
どんな医者にみせても、原因が分からず、勲爵士は困惑する。
アツォは、度々屋敷に現れるが、特にフランツを軽蔑した様子を見せる。

そこへ、ヴォイスラウが一同に合流することになる。
ヴォイスラウは、たくましい武人。彼は、戦闘で右手を失い、大公より贈られた黄金の義手をつけている。義手には、強力なばねが入り、人間技ではありえない力を発揮できる。
ヴォイスラウは、フランチスカの様子に驚き、カルパチアの地に来てから起こったことを、皆に逐一尋ねる。
皆は、アツォのことを、ヴォイスラウに話す。

そこへ、アツォが現れる。アツォは、フランツを笑いものにして去る。それまで耐えてきたフランツはついに爆発し、アツォに決闘を挑むが、アツォは、片手で軽々とフランツの動きを封じ、濠に投げ入れようとする。
それを、ヴォイスラウは、黄金の義手で阻止。ヴォイスラウの人外な力に驚いたアツォは、ヴォイスラウを「同類」と呼び、姿を消す。

ヴォイスラウは、フランチスカに、「あなたの病気を治すことができる」と言い、クラトカ城に連れて行く。
ヴォイスラウは、フランチスカに、クラトカ城の元城主エッツェリン・フォン・クラトカの墓を、釘付けするように言う。
フランチスカは、ヴォイスラウの唱える使徒信経に支えられ、釘を打ち込むたび内部で何かがうごめく棺に、釘付けを完了させる。

屋敷に帰り、ヴォイスラウは、アツォが、何百年も前に死んだ「エッツェリン・フォン・クラトカ」その人であり、吸血鬼だったことを話す。アツォが、ヴォイスラウを「同類」と呼んだのは、ヴォイスラウの義手の力を、吸血鬼の超人力だと思い込んだため。

事件の後、人の優しさを理解するようになったフランチスカは、フランツと結婚。同じ日に、ヴォイスラウとベルタも結婚する。

●カルパチアの城主が吸血鬼となり、夜な夜な美女の血を吸う設定は、思わず「ああ、ドラキュラの亜流ね」と思ってしまうが、実は、本作が執筆されたのは、少なくとも1860年より前である。つまり、反対に「本作にストーカーが影響を受けた」というのが正しい。ここまでの類似があると、ストーカーが本作を読んでいないとは、ちょっと考えられない。「ドラキュラ」と「クラトカ」の、語感にも、共通するものが感じられる。

●本作は、作者不詳。ドイツ語で書かれた物語であることしか分かっていない。ドイツ語のテキストが、英訳されて、「オッズ・アンド・エンズ」誌に掲載されたのが、1860年のこと。

●「吸血鬼ドラキュラ」と、本作を比べると、やはり、「吸血鬼ドラキュラ」の方が近代的である。二作の、もっとも異なる点はヴァンパイア・ハンター像の違いである。「吸血鬼ドラキュラ」のヘルシング教授は、大学教授であり、ドクターであり、理知の人だが、本作のヴォイスラウは、賢い人として描かれてはいるが、明確な「武人」キャラである。本作は、黄金の腕とよろいを持った、神に守られた騎士が、闇にうごめく悪を打ち払うという、一種の「聖騎士伝説」なのである。最後が二組のカップルの結婚式で終わるところも、伝説とか、昔話風である。

●邦訳状況
ハヤカワ文庫「ドラキュラのライヴァルたち」マイケル・パリー編に収録。小倉多加志訳。現状では、このアンソロジーでしか読むことができない。

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