ストーリー
古文書などの研究家、ラクソール氏の残した手記のかたちで、怪異譚が語られる。
ラクソール氏は、スウェーデンに旅行し、ある名門家系の領地内で、研究調査をすることになった。
古文書を研究していると、昔の領主:マグナス伯爵の記述があり、その肖像画も見て、迫力に心を引かれる。
研究を進めると、マグナス伯爵の評判は、非常に悪く、小作人に対しては、厳しい領主だったことがわかった。
伯爵について言い伝えられていることの中には、伯爵が「悪魔の遍歴」に出て、何かを連れて帰ってきた、という話があった。
ますます興味を持ったラクソール氏は、マグナス伯爵の霊廟の前に立ち、「お会いしたものだ」と独り言を言う。すると、霊廟の中から、何かが落ちるような物音がした。
ラクソール氏は、宿屋の主人に、マグナス伯爵の領地の森で起こった不思議な話を聞く。
「92年前、伯爵の死後、領地の森に、村の男二人が狩りに入ろうとした。男達は、『森の中には、成仏できない者がさまようといわれている。入ってはいけない』という忠告を無視して出かけた。その夜、森から悲鳴があがり、続いて、人のものとは思えない笑い声があがった。二人の男は、一人は顔をえぐられて死んでおり、もう一人は、生きていたが、ショックからか、すぐに死んでしまった」
ラクソール氏は、再び霊廟に行く。マグナス伯爵の棺を見ると、怪しい悪魔的な「マントの男」の彫金が施されている。
伯爵の棺の南京錠が、二つ外れている。
滞在の最後の日、ラクソール氏は、霊廟を訪ね、また独り言で「お会いしたいものだ」と言う。すると、棺の最後の南京錠が床に落ち、棺の蓋が持ち上がってきた。
霊廟から逃げ出し、イギリスへ帰途につくラクソール氏の前に、謎の二人連れの影がつきまとう。それは、マグナス伯爵と、彼が連れ帰った「謎のマントの男」なのか?(後は読んでのお楽しみ)
補足情報
この物語には、「吸血鬼」という言葉は出てこない。吸血シーンもない。森に入って死んだ男は、「顔をえぐられている」のであって、「そこから血を取った」とは書かれていない。
しかし、この短編は、一般的には「吸血鬼譚」として知られているものである。
暴君が、不死者となってさまよう、棺を開けて出てくる、多分悪魔と契約したらしい、などの要素が、吸血鬼譚の主要要素を満たすためである。
M・R・ジェイムズが、どこまで吸血鬼を意識したのかは不明だが、原題「Count Magnus」が、ドラキュラ伯爵をまったく意識していないとは、私には思えない。
邦訳状況
「マグナス伯爵」収録アンソロジーは、
M・R・ジェイムズ怪談全集〈1〉 (創元推理文庫)ドラキュラのライヴァルたち (1980年) (ハヤカワ文庫―NV)