ハリウッド・ゴシック ドラキュラの世紀

著者:デイヴィッド・J・スカル

吸血鬼研究本というよりも、「エンタメ化されたドラキュラの研究本」である。
「吸血鬼ドラキュラ」の執筆や、舞台化、映画化の周辺事情について書かれている。
それも、限定された時代の舞台ドラキュラとハリウッド・ドラキュラに特に詳しい内容である。

本書は、一般的な「ドラキュラ映画情報本」「ドラキュラ舞台情報本」とは一線を画する。
ほかの研究本ではわずかな情報しかない(いや、まったく情報が無い、と言っても良い)スペイン語版の「魔人ドラキュラ」についての記述が特に詳しいのである。一昔前までは、ほとんどの吸血鬼ファンにとって、見ることもかなわなかった映画の情報がこれだけ詳しいことには、全く驚かされた。

また、英語版の方の「魔人ドラキュラ」の情報も詳しく、他の本ではほぼ言及されないようなスタッフ情報、キャスト情報にあふれている。
それらの情報の中には、吸血鬼とは関係ないゴシップ的なものもあるのだが、とにかく入手できなくなるばかりの古い情報に詳しいので、吸血鬼映画ファンなら持っておくべき一冊であると思う。

本書を読むと、なぜか物悲しい思いが胸に残る。本書で取り上げられる人たちの人生の上にあった「軋轢」みたいなものがたびたび描かれるからだと思う。

ドラキュラを創作した人たちは、いつでも幸せとは言えなかったのだ。苦しみや、後悔、葛藤、報われない思いの中でドラキュラと向かい合った人たちがたくさんいたのだ。
にもかかわらず、ドラキュラが大衆にもたらした喜びは大きく、きっとこれからも廃れずに創作され続けるんだろう。まぎれもない喜びによる興奮が、引き継がれていくんだろう。
そんなドラキュラエンタメの歴史の、ほんの一部をのぞき見させてもらえるような本である。

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